街道一口メモ: 狛犬カタログ  参道狛犬の集計

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狛犬一口メモ

Q1.狛犬とは何か

 
 下呂の狛犬博物館の名誉館長である上杉千郷氏の説を拾い読みすると、
「獅子を玉座を守る霊獣と考えたのは古代オリエントであり、『獅子座の思想』という。
その思想がシルクロードをわたり中国に入って、宮廷を守護するように設置され、
宮廷の儀式の調度ともなった。それが我が国の宮廷に入ってきた」という。

 また、日本の古代の宮廷で演じられた伎楽の中に「狛犬」という獅子舞があった。
その伎楽から、角のない獅子と角のある狛犬を対とする観念が生まれ、やがて彫像となった
ともいわれる。

 平安時代に獅子・狛犬が貴人の御座所である御帖台の前に置かれるようになった。
右の獅子は口を開け、たてがみは巻き毛である。左の狛犬は口を閉じ、たてがみは直毛で
角がある。

 その後、厄除けとして神社などの社殿の中や縁に木製の獅子・狛犬が置かれるようになる。
 神殿の中の獅子・狛犬は関東でもたまに見かけるが、縁の上に置かれたものは関西でしか
見たことがない。

 獅子・狛犬が神社の社殿の中や縁から参道に出されて置かれるようになるのは1600年代
からといわれ、このときに石造りの参道狛犬になる。
 私の見た最も古い狛犬は目黒不動の承応3年(1654)の狛犬で、そのことと符合する。

 狛犬は、設置される地域や時代によってその姿かたちが異なっている。

 神社の参道などに狛犬ではなく、動物が対になって置かれていることがある。
 これらは神使として神社等を守るという趣旨は狛犬と同じなのでここでは「参道狛犬」として
扱い、キツネとかウシとかに分類した。

Q2.神社には必ず狛犬がいるか(参道狛犬の集計1「神社と狛犬数」参照)

 狛犬のいるところも、いないところもある。神社でなく寺院等でも狛犬がいるところがある。

 狛犬が1対だけいる神社は約7割あるが、複数の狛犬がいる神社もある。
 最も多いのは、東京の目黒不動と草津の立木神社の9対である。

 また「参道狛犬の集計」の表では狛犬がいない神社が多い地域があるが、以下のことから
「なし」の神社欄はあまり考慮しないでほしい。
 平凡な神社で狛犬がいない神社では記録を採らなかった。また稲荷神社はほとんど
立ち寄らず、由緒があったり記録しておきたいキツネや狛犬がいた時にだけ記録を採った。 

Q3.仁王門の仁王様は向かって右が口を開けた「阿」、左が口を閉じた「吽」だが、
   
神社の参道にいる狛犬も右から「ア・ウン」か(参道狛犬の集計2「狛犬の阿吽」参照)


 約9割の狛犬が右から「ア・ウン」の順になっている。
 「ウン・ア」や「ア・ア」など「ア・ウン」以外の組み合わせは全体では約1割であり、
東京や神奈川に比較的多い。

Q4.狛犬は必ず「玉」や「子の狛犬」を持っているのか
               
(参道狛犬の集計3「狛犬がもっている玉・子狛」参照)


 「玉」や「子狛」がいる狛犬は4割弱である。

 そのうち右から「玉・子狛」の組み合わせが6割弱ある。
 他に「子狛・子狛」「子狛・玉」のものもかなりある。
 特に東京では「玉・子狛」以外のものが圧倒的に多い。

 子狛は親狛の前足で押さえられたものが多いが、親の背中に乗っていたり、
オッパイを飲んだりして表情の豊かなものもある。

Q5.狛犬には性別があるのか(参道狛犬の集計4狛犬の雌雄」参照)

 約9割の狛犬の性別はわからない。

 性別がわかるのは「雄の印」がある狛犬や「オッパイを飲んでいる子狛」がいる狛犬など
である。
「オッパイを飲んでいる子狛」がいると雌であるが、相手が雄かどうかはわからない。
一方「雄の印」で雄とわかった狛犬の相手は、「雄の印」がなければ雌と類推した。

 右から「雌・雄」と「雄・雌」の組み合わせの狛犬は合わせて18対あった。
「雄・雄」の組み合わせは23対であるが、 これは強さを強調した「招魂社」や「鈴しょうわ」の
狛犬が主である。

Q6.狛犬の年齢はわかるのか(参道狛犬の集計5「狛犬の年齢」参照)

 台座等に奉納した年月日が彫られているものが多く、それで8割強の年齢がわかる。
また古い狛犬では背中に彫られたり、分離していない四肢の間に彫られたものもある。

 私が見た最も古い狛犬は、東京の目黒不動の「はじめ」狛犬で承応3年(1654)であった。
 それぞれの地域の最も古い狛犬は、
神奈川では杉田八幡神社の元禄5年(1692)の「はじめ」狛犬、
岐阜では西山田神社の寛保3年(1743)の「はじめ」狛犬であった。

 江戸時代誕生のものは58対あり、全体の1割強である。
 東京、神奈川の狛犬は他の地域と比べると江戸時代のものが多く、静岡は昭和のもの、
愛知は大正のものが多い。そして三重、滋賀は明治のものが比較的多い。

Q7.狛犬には種類があるのか。地域によって特徴があるのか
                    
(参道狛犬の集計6「狛犬の分類」参照)

 狛犬の種類は「狛犬カタログ」のように分類することができる。
 「はじめ」のほかに、江戸系は6分類、しょうわ系は7分類、京系は7分類に分け、
残りは「招魂社」など少数の狛犬と動物である。

 「はじめ」は14対いて、江戸系は全体の狛犬数の3割弱で、しょうわ系は5割弱、
京系は1割強である。

 種類は地域によってかなり特徴がある。
 江戸系は東京、神奈川に集中し、静岡にもいる。
 しょうわ系は静岡を中心に愛知、神奈川に多く分布し、三重、滋賀にも広がっている。
 京系は三重、滋賀に集中し、愛知にもいる。
 その他では、「招魂社」は東京、神奈川、静岡にあり、「神殿狛」は滋賀にある。

 地域別にいえば、東京の狛犬の約半分が江戸系で、神奈川は江戸系としょうわ系が
拮抗している。
 静岡、愛知の約8割がしょうわ系で、三重、滋賀は半数以上が京系である。

Q8.狛犬をつくったのは誰か

 狛犬の製作者は、台座等に石工の名前が彫られていてわかることがある。
 3割弱の狛犬に石工の名前が彫られているが、古くてはっきり読めないものもある。

 東京、神奈川では4割ほどの狛犬に石工の名前が彫られていたが、他の地域は少ない。

 同一の石工の名前はほとんどが1回か2回見るだけであるが、
岡崎の酒井孫兵衛は愛知を中心に9回も登場する。
 他に3、4回登場したのは、溝の口の内藤慶雲、青山の石勝中村勝五郎、
岡崎の成瀬大吉である。

Q9.狛犬はどのような目的で設置されたのか

 設置の趣旨が台座などに彫られていて、わかるのは1割強の狛犬である。

 そのうち、最も多いのは皇室に関わるもので、大正から平成までの御大典や御成婚を
記念するものである。
 次に戦争に関わるもので、武運長久・戦捷を願うものや凱旋を記念するものである。
 また、皇紀2600年を記念するものも多いが、これは大陸での戦争が始まっている
昭和15年(1940)にあたり、国威高揚の趣旨であろう。
 一方で、個人の長寿を記念するものとか、厄除けの祈りなどを込めたものもある。

Q10.狛犬は誰が奉納したのか

 氏子中とか若者中とかの地域の神社関係者のものがほとんどである。

 それ以外では、漁業、消防、大工、鳶など体を張った職業に関係している人が奉納したり、
職人や商人の講中が奉納している。

 また伊勢神宮に関する太々講とか大山講など宗教に関係する講中のものもある。

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